最近、「老害」という言葉をよく耳にするようになりました。昔は会社や社会の発展を引っ張ってきた人たちが、いつのまにか新しい変化の足かせになってしまう—。これは、ただ単に世代による考え方の違いというだけでは説明できない、もっと複雑な理由があります。
この記事では、人はなぜ年を重ねるにつれて変化を受け入れにくくなるのか、その本当の理由を探ってみたいと思います。
「うまくいった経験」が変化をこわくさせる
人が変化をいやがるようになる一番大きな理由の一つは、過去の成功体験です。特に会社の上のポジションにいる人たちは、これまでの人生でたくさんの成功を重ねてきた人たちです。その成功は、特定のやり方や考え方によって得られてきました。
たとえば、「face to face(対面)のコミュニケーションが大切」と信じている管理職の人が、なぜリモートワークに反対するのでしょうか。それは、ただ新しい技術が不安だからというだけではありません。これまでの成功体験から「直接会って話すことが一番いい」という強い信念ができあがっているからなのです。
この成功体験は、次のような心の動きを生み出します:
1. 自分の経験が「正しい」という思い込みが強くなり、それに反する意見は聞き流したり否定したりしがち
2. 「今うまくいってるんだから、わざわざ変える必要はない」という慎重すぎる考え方
3. 長い時間をかけて身につけたやり方を、なかなか手放せない気持ち
柔軟な考え方が難しくなっていく
年を重ねるにつれて、頭の働きも少しずつ変わっていきます。これは単純に「頭が固くなる」というわけではなく、次のような具体的な変化として表れます:
1. 新しい情報を理解するスピードが遅くなる
2. いくつもの視点から物事を見る力が弱くなる
3. いつもの考え方から抜け出すのが難しくなる
こういった変化は、特に今のように技術の進歩が速い時代では、より大きな影響を及ぼします。新しい道具やサービスの使い方を覚えるのに時間がかかり、そのせいで「昔のやり方の方が楽だった」と感じやすくなります。
上の立場になることで見えなくなるもの
会社での立場が上がるにつれて、大切な情報が届きにくくなります。これには次のような特徴があります:
1. 部下から本音の意見をもらいにくくなる
2. 現場で何が起きているのか、だんだん分からなくなる
3. 自分の判断に自信を持ちすぎてしまう
特に注目したいのは、こういう状況だと自分の問題に気づきにくくなるという点です。まわりから本当の意見が減ることで、自分が「老害化」していることに気づけなくなってしまいます。
変化することの「得」と「損」の天秤
年を重ねるにつれて、変化することで得られるものと失うものの計算が変わってきます:
1. 仕事人生の残り時間が短くなり、新しいスキルを学ぶやる気が出にくい
2. 今のやり方で安定した結果が出ているから、それに頼りたくなる
3. 変化に対応するための体力や気力を確保するのが難しくなる
こういう状況では、たとえ長い目で見て変化が良いことだとわかっていても、目の前の大変さが気になって、変化を避けたくなってしまいます。
どうして当事者は気づかないの?
老害化の一番やっかいな特徴は、本人がそれに気づけないことです。これには次のような理由が考えられます:
1. 「自分はちゃんと時代についていってる」と思い込んでいる
2. 長年の経験を持っているという自信が、今の課題に合っていないことに気づけない
3. まわりから率直な意見をもらえる機会が少ない
さらに、会社の文化や仕組みが、この状況を悪化させることもあります:
1. 年功序列的な組織の形
2. 決定権が上の人に集中しすぎている
3. 若い人の意見を軽く見る雰囲気
変化に対応する力を保つために
では、このような変化への抵抗にどう向き合えばいいのでしょうか。ここでは、すぐに始められる具体的な行動をご紹介します。
1. 新しいことへの「体験筋」を鍛える
「新しいもの」に触れる機会を、意識的に増やしていきましょう。例えば:
– 今話題のスマホアプリを1週間に1つダウンロードして使ってみる
– 行ったことのない店で食事をする習慣をつける
– 10代、20代が好きな音楽を週1回は聴いてみる
– 新しいキャッシュレス決済サービスを使ってみる
最初は「面倒くさい」「なんでこんなことしないといけないんだ」と感じるかもしれません。でも、この「新しいもの体験」を続けていくと、だんだん新しいことへの抵抗感が減っていきます。そして、いつの間にか「新しいものってなんだか楽しい!」というワクワク感が戻ってくるはずです。
2. 「自分はもう老害かも」と認めてみる
多くの人は「まだまだ若い」「自分は柔軟に対応できている」と思っています。でも、それこそが老害の始まりかもしれません。
「もしかしたら、自分ももう老害の仲間入りをしているかも」
この認識を持つことから、本当の変化は始まります。若い世代の意見を「最近の若い者は…」と切り捨てそうになったとき、この自覚があれば「ああ、これが老害の考え方だ」と気づけます。
3. 若い人の意見を「とにかく」聞いてみる
「若い人の意見を聞く」というと簡単そうに聞こえますが、実は結構難しいものです。なぜなら:
– つい自分の経験と比べて「それは違う」と否定したくなる
– 話の途中で「あ、わかった」と決めつけて、最後まで聞かない
– 「こうすれば?」とすぐにアドバイスしたくなる
まずは、これらの衝動を抑えて、「最後まで黙って聞く」ことから始めましょう。相手の話を遮らず、助言もせず、ただひたすら聞く。これだけでも、思った以上に新しい発見があるはずです。
4. 「分からない」「知らない」を認める練習をする
年を重ねると、どうしても「知ったかぶり」をしがちです。でも、むしろ:
– 「それ、よく分からないな。教えてくれる?」
– 「その言葉、初めて聞いたよ。どういう意味?」
– 「私の知ってる方法と違うけど、そっちの方がいいの?」
こんな風に素直に「知らない」と認められる人の方が、周りから信頼されます。
これらの行動は、どれも始めるのに特別な準備は必要ありません。今日から、できることから少しずつ始めてみませんか? 変化に強い自分を作るための第一歩として、ぜひチャレンジしてみてください。
おわりに
老害化は、誰にでも起こりうる問題です。大切なのは、これを個人の問題として片付けるのではなく、組織や社会全体で取り組むべき課題として考えることです。
年を重ねることで得られる経験と知恵を大切にしながら、新しい変化も受け入れられる柔軟さを保つ—。この両方のバランスを取ることこそが、長く続く組織や社会の発展には欠かせないのではないでしょうか。