“老害”と思われないために —— 男性更年期とおじさんの変化に向き合う

“老害”と思われないために —— 男性更年期とおじさんの変化に向き合う

SNSで見かける「老害」——それ、本当に人柄のせい?

最近、SNSや職場でよく耳にする「老害」という言葉。
「話を聞かない」「自分の価値観を押しつける」「怒りっぽい」といった行動を指して、揶揄的に使われることが増えています。

もちろん、すべての年配男性がそうではありません。しかし、自覚のないまま周囲から「扱いにくい人」と思われてしまうケースがあるのも事実。

実はこうした行動の背後に、ホルモンバランスの変化という“カラダからのサイン”が潜んでいることがあります。
40〜50代以降の男性が経験する「男性更年期(LOH症候群)」は、知らず知らずのうちに性格や対人関係に影響を及ぼすことがあるのです。

男性にもある“更年期”——テストステロンの低下がもたらすもの

更年期というと女性だけのものと思われがちですが、男性にも起こります。
医学的には「加齢男性性腺機能低下症候群(LOH症候群)」と呼ばれ、主に男性ホルモン=テストステロンの減少が原因です。テストステロンには、筋肉の維持、性機能、集中力や判断力、そして感情のコントロールや寛容さにも関わる作用があります。

これが40代後半から徐々に減少すると、以下のような心身の不調が現れます。

  • イライラしやすい
  • やる気が出ない
  • 疲れやすい
  • 落ち込みやすい
  • 性欲の減退
  • 対人関係の摩擦が増える

「話を聞かないおじさん」と呼ばれるような行動の裏側にも、実はこうしたホルモン変化による精神的ストレスが関係している可能性があります。

“話を聞かないおじさん”現象と男性更年期の共通点

なぜ中高年男性は「話を聞かない」と思われてしまうのでしょうか?
それは、男性更年期によってもたらされる以下のような心理的変化が影響していることがあります。

1. 自己肯定感の低下 → マウンティング傾向

テストステロンが減ると、自信を失いやすくなり、それを補うために「上から目線の言動」や「説教っぽさ」が出やすくなります。

2. 共感力の低下 → 話を聞かない

感情の調整力が落ちることで、他人の話に耳を傾けたり、共感したりする余裕がなくなることも。

3. 環境変化へのストレス → 怒りっぽくなる

昇進・定年・家族関係の変化なども重なり、イライラや焦燥感が表面化しやすくなります。

こうした変化は決して“人格の問題”ではありません。年齢とともにホルモンや環境がもたらす、ごく自然な変化なのです。

「老害」と言われないためにできること

周囲との軋轢や誤解を避け、「頼れる存在」として歳を重ねていくために、今からできることがあります。

自分の変化に気づく

まずは「最近イライラしやすいな」「人の話を素直に聞けなくなってきたかも」といった小さな変化に気づくことが第一歩です。

生活習慣を整える

  • 質の良い睡眠をとる
  • バランスのよい食事
  • 定期的な運動
  • アルコールやタバコの見直し
  • 適度に休む・ストレスを溜めすぎない

こうした日々の習慣が、テストステロンの分泌を自然に支えてくれます。

信頼できる人に相談する

自分だけで抱え込まず、家族や同僚、専門医に相談することも大切です。泌尿器科やメンズヘルス外来では、血液検査によって男性更年期の診断が可能です。
必要に応じて、テストステロン補充療法やカウンセリング、サプリメント治療などの対処も選べます。

まとめ:年齢を重ねた“かっこよさ”とは

「話を聞かないおじさん」「老害」——こんなふうに言われるのは誰だって嫌なはずです。でも、原因がただの性格や加齢だけでなく、「男性更年期」という体の変化にあるとしたら?
そう考えると、少し肩の力が抜けるのではないでしょうか。

年齢を重ねても人に慕われる人の共通点は、自分の弱さや変化を認め、それに向き合う勇気を持っていること。ホルモン変化も体調不良も、ちゃんと向き合えばコントロール可能なものです。

「聞く力」こそ、大人の魅力の一つ。自分の変化を受け入れ、他者に耳を傾ける姿勢が、あなたの人生の後半をより豊かにしてくれるはずです。

参考文献リスト

この記事の監修者

伊勢呂 哲也

医療法人インテグレス理事長
大宮エヴァグリーンクリニック 理事長・院長
東京泌尿器科クリニック上野/
池袋消化器内科・泌尿器科クリニック/
新橋消化器内科・泌尿器科クリニック 理事長

泌尿器科・消化器科の専門領域で年間3万人の外来診察を行う。著書、テレビ出演歴多数。専門Youtubeチャンネルは18万人以上の登録者(2025年1月現在)
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