見えない疲労の正体を知る – 中年期ストレスのサインと対処法う

見えない疲労の正体を知る:中年期ストレスのサインと対処法う

人生100年時代と言われる現代、40~50代の男性はこれまで以上に多くの役割を求められるようになっています。
仕事では若手と肩を並べながら成果を出し続けることを期待され、家庭では子どもの進学や独立、さらには親の介護といったライフイベントにも向き合わなければなりません。気づけば「頑張ることが当たり前」になり、心身の疲れを見過ごしてはいないでしょうか。

こうした日々のプレッシャーは、知らず知らずのうちにストレスとなり、体調不良や心の不安定さを引き起こすことがあります。しかし、そのストレスとうまく向き合い、上手に解消していくことができれば、この先の人生をより健やかに、充実したものにしていくことができるはずです。

この記事では、40~50代の男性が抱えやすいストレスの原因と、それが心と体に及ぼす影響、そして日常生活で実践できる予防と管理の方法を紹介します。

ストレスの定義と日常的なストレスの種類

ストレスとは、外部からの刺激によって心や体に負担がかかり、緊張状態になることを指します。この「刺激」とは、仕事や人間関係といった精神的なものだけでなく、気温の変化や睡眠不足など身体的なものも含まれます。

ストレスそのものは決して悪いものではなく、適度なストレスは集中力を高めたり、行動を促したりする役割もあります。しかし、過度なストレスや慢性的なストレスは心身のバランスを崩し、健康に悪影響を及ぼすことがあります。

ストレスの種類

  • 仕事のストレス
    長時間労働、昇進・降格、人間関係の悩み、仕事のプレッシャーなど
  • 家庭のストレス
    パートナーとの関係、子育て、親の介護、家庭内の経済的な不安など
  • 健康や加齢に関するストレス
    体力の衰え、慢性的な疲れ、睡眠不足
  • 社会的なストレス
    人間関係、経済状況、社会的な役割の変化   
  • 環境的ストレス
    天気、公害、花粉など

ストレスが身体や精神に与える影響

ストレスは短期間であれば大きな問題になりませんが、慢性的に続くと心身に悪影響を及ぼします。
特に40~50代の男性は、仕事や家庭の責任が重くなる一方で、体の変化も感じやすい年代。ストレスが積み重なると、さまざまな症状が現れますが、心身の不調がストレスと気づかずに放置してしまうケースも少なくありません。
次のような症状がある場合には早期の対策が必要です。

ストレスが身体に与える影響

身体的な症状

  • 慢性的な疲労感
    ストレスが続くと副腎に負担がかかり、エネルギーを生み出す力が低下します。その結果、十分な睡眠を取っても疲れが抜けず、週末にしっかり休んだはずなのに月曜の朝に倦怠感が残るなど、慢性的な疲労感があらわれることがあります。
    これは、ストレスによるホルモンバランスの乱れと深く関連しています。
  • 頭痛や肩こり
    ストレスは交感神経を過剰に働かせ、筋肉を緊張させることで血流を悪化させ、頭痛や肩こりを引き起こします。長時間のデスクワークや運転などで、肩がガチガチに固まり、夕方には頭痛まで感じるといった症状があらわれることがあります。
    ストレスが慢性化すると、緊張性頭痛や片頭痛につながることも少なくありません。
  • 胃腸の不調
    ストレスを感じると交感神経が優位になり、消化機能が低下します。その結果、胃酸の過剰分泌や腸内環境の乱れを引き起こし、胃もたれや胸焼け、下痢、便秘といった症状があらわれます。
    胃がキリキリ痛み、食事をしても消化不良を感じるケースもあり、長期間続くと胃潰瘍や過敏性腸症候群(IBS)などを引き起こすこともあります。
  • 睡眠の質の低下
    ストレスにより脳が興奮状態になると、寝つきが悪くなったり、夜中に何度も目が覚めたりします。ストレスによる睡眠障害が続くと、睡眠の質が低下し、十分な疲労回復が行われません。
  • 血圧の変動
    ストレスは交感神経を刺激して血管を収縮させ、一時的に血圧を上昇させます。特に40~50代では、男性更年期によるホルモンバランスの乱れと重なり、血圧が急激に上下する「血圧変動」が起こりやすくなります。
    仕事中のプレッシャーで血圧が急に上がり、帰宅後に一気に下がって強い倦怠感を感じるなどの症状が見られることもあります。このような血圧の不安定さは、高血圧や動脈硬化、心疾患のリスクを高める要因となります。

精神的な症状

  • イライラしやすくなる
    ストレスが続くと交感神経が優位になり、常に「戦闘モード」のような状態になります。その結果、些細なことで怒りやすくなり、心に余裕がなくなることがあります。
    例えば、職場でのちょっとした指摘や家庭内の些細な出来事に過剰に反応してしまい、後から「なぜあんなに苛立ったのか」と自己嫌悪に陥ることも少なくありません。通勤中の軽い渋滞や、部下からの確認不足の報告に必要以上に苛立つといったケースがよく見られます。
  • 不安や抑うつ感
    慢性的なストレスは、脳内の神経伝達物質であるセロトニンやドーパミンの分泌を低下させ、気分の安定を保つ力を弱めます。その結果、将来に対する漠然とした不安や無力感を感じることが増え、気分が落ち込みやすくなります。男性更年期によるホルモンバランスの変化が重なると、抑うつ感がさらに強まることもあります。
    「自分はこの先やっていけるのか」と漠然とした不安を抱え、やる気が湧かないと感じることが典型的な例です。
  • 集中力や判断力の低下
    ストレスにより脳の前頭前野(思考や判断を司る部位)の働きが低下し、集中力や注意力が散漫になります。その結果、仕事の効率が下がり、ケアレスミスが増えることがあります。複数のタスクを同時に進めることが難しくなり、決断に時間がかかることも少なくありません。
    例えば、同じ書類を何度も確認してしまったり、会議中に話の内容が頭に入ってこないといった状況が挙げられます。

ストレスが男性更年期症状を引き起こす理由

ストレスは、心身にさまざまな影響を及ぼすだけでなく、体内のホルモンバランスを乱す要因にもなります。特に40~50代の男性は、加齢とともに男性ホルモン(テストステロン)の分泌が緩やかに低下しはじめる時期。ここに慢性的なストレスが加わることで、ホルモンの減少が加速し、男性更年期症状を引き起こすリスクが高まります。

ストレスがどのように男性更年期と関連し、症状を悪化させるのかを詳しく解説します。

ストレスで増えるコルチゾール

男性更年期の主な要因は、加齢に伴うテストステロン(男性ホルモン)の低下ですが、実はテストステロンはストレスによって分泌されるコルチゾールというホルモンと深い関係があります。 

ストレスを感じると、体は防御反応を示し、生存のために副腎からコルチゾールというホルモンを分泌します。コルチゾールは、ストレスに対処するための「緊急スイッチ」のような役割を果たし、一時的に心身を活発な状態に導きます。

コルチゾールの働き

  • エネルギー供給
    血糖値を上げ、筋肉や脳が素早くエネルギーを使えるようにする。
  • 心拍数と血圧の上昇
    全身に酸素と栄養を送り、身体を素早く動かせる状態にする。
  • 炎症の抑制
    ケガや病気への免疫反応を一時的に抑えることで、行動に集中できるようにする。

これらの反応は、短期間であれば体を守る役割を果たします。しかし、仕事のプレッシャーや家庭の悩みなど慢性的なストレスが続くと、コルチゾールの分泌が常に高い状態となり、次第に体内のホルモンバランスが崩れていきます。

コルチゾールの増加とテストステロンの関係

コルチゾールが慢性的に高い状態が続くと、体はエネルギーを確保することを最優先にし、他のホルモンの生成を後回しにします。その影響を最も受けるのがテストステロンです。

テストステロンとコルチゾールは、同じ「コレステロール」から作られるホルモンですが、ストレス下では体は生存に直結するコルチゾールを優先的に生産します。そのため、長期的なストレス状態では、コルチゾールの過剰分泌がテストステロンの分泌を抑制してしまいます。

コルチゾールの過剰分泌によって、テストステロンが低下すると、筋力や性欲の低下、疲労感、気分の落ち込みといった男性更年期の症状が現れやすくなります。この状態が続くと、ストレスによる心身の不調とホルモンバランスの乱れが悪循環を生み、さらなる不調を招くことになります。

ストレスが男性更年期を引き起こす

ストレスを抱えながらも「まだ頑張れる」と無理をしてしまう人も少なくありませんが、更にストレスが強くなり、男性更年期を引き起こすとさまざまな症状が現れます。男性更年期と気づかずに放置し、悪化してしまうケースもあります。
次のような症状がある場合には要注意です。

  • 免疫力の低下
    慢性的なストレスは免疫力を低下させ、風邪や感染症にかかりやすくなります。また、傷の治りが遅くなるなど、回復力も衰えます。
  • 慢性疲労
    ストレスが蓄積すると、副腎が疲弊し、慢性疲労症候群を引き起こすことがあります。疲れが抜けず、日常生活に支障をきたすことも。
  • 抑うつ
    ストレスが長期化すると、脳内の神経伝達物質のバランスが崩れ、うつ病を発症するリスクが高まります。何をしても楽しくない、やる気が出ないといった症状が続く場合は注意が必要です。

上記のような症状があるという人は、ストレスによって男性更年期障害が進んでいる可能性があり、放置すると生活の質が低下するため、早期の対策が求められます。

ストレス対策

ストレスを完全に避けることは難しいものの、日々の生活習慣を見直すことで心身への影響を軽減し、健康的に過ごすことが可能です。
ここでは、ストレスを予防するための生活習慣と、心を落ち着かせる具体的なリラックス法について詳しく解説します。

生活習慣の改善

適度な運動

運動はストレス解消に効果的な習慣のひとつです。特にウォーキングや軽いジョギングは、リズミカルな動きが副交感神経を活性化し、心をリラックスさせる効果があります。

たとえば、1日20~30分のウォーキングを取り入れるだけでも気分がすっきりし、ストレスホルモンの減少が期待できます。さらに、筋トレなどの無酸素運動はテストステロンの分泌を促進し、男性更年期の症状を緩和する効果もあります。

バランスの取れた食事

栄養不足は体のストレス耐性を低下させるため、バランスの良い食事を心がけることが重要です。特に、ビタミンB群は神経の働きをサポートし、心の安定に役立ちます。マグネシウムには筋肉の緊張を緩和し、リラックス効果を高める働きがあります。

たとえば、玄米やナッツ、バナナ、ほうれん草、青魚などを日常の食事に取り入れることで、ストレスへの抵抗力を高めることができます。

十分な睡眠

質の良い睡眠は心身の回復に欠かせません。ストレスが原因で眠りが浅くなることも多いため、寝る1時間前からスマホやパソコンの使用を控え、脳をリラックスさせる環境を整えることが大切です。

たとえば、寝る前に軽くストレッチをしたり、好きな本を読むことで心を落ち着けると、スムーズな入眠につながります。また、就寝と起床の時間を一定に保つことも、体内時計を整え、安定した睡眠を得るポイントです。

趣味やリラックスの時間を持つ

日常に楽しみや癒しの時間を取り入れることも、ストレス管理には欠かせません。好きな音楽を聴く、読書をする、映画を見るといった活動は、心の緊張を解きほぐし、リフレッシュ効果をもたらします。

たとえば、忙しい日でも10~15分だけ自分の時間を確保し、コーヒーを飲みながら音楽を聴くだけでも、心に余裕が生まれます。また、家族や友人との交流も、心を前向きに保つ効果があります。

ストレス管理に役立つリラックス法

深呼吸や瞑想

深呼吸や瞑想は、自律神経を整え、心を落ち着かせる効果があります。特に、4秒吸って8秒かけて吐くといったゆっくりとした呼吸法は、副交感神経を優位にし、ストレス反応を抑えることができます。

たとえば、朝起きたときや寝る前に5~10分間、深呼吸を行うだけでも、心身のリラックス効果を感じることができるでしょう。

マッサージやストレッチ

ストレスが溜まると無意識に筋肉が緊張し、肩こりや頭痛などの身体的な不調を引き起こします。そのため、首や肩、背中などのコリやすい部位を軽くマッサージしたり、簡単なストレッチを行うことで血流が改善され、心身のリラックスにつながります。

たとえば、仕事の合間に肩を回したり、入浴後に首をゆっくり伸ばすだけでも、筋肉の緊張が和らぎます。

自然と触れ合う

自然の中で過ごすことも、心を落ち着かせる効果があります。森林浴や公園での散歩は、心拍数を落ち着かせ、ストレスホルモンであるコルチゾールを低下させることが科学的にも証明されています。

たとえば、週末に近くの公園を20分ほど散歩するだけでも、心が軽くなり、リフレッシュ効果を感じることができます。

まとめ

40~50代の男性にとって、ストレスは避けられないものですが、正しく管理することで健康を維持することが可能です。
ストレスを適切にコントロールすることで、心身の健康を守り、充実した日常を送ることができます。まずは「自分のストレスを知る」ことから始めてみましょう。

この記事の監修者

伊勢呂 哲也

医療法人インテグレス理事長
大宮エヴァグリーンクリニック 理事長・院長
東京泌尿器科クリニック上野/
池袋消化器内科・泌尿器科クリニック/
新橋消化器内科・泌尿器科クリニック 理事長

泌尿器科・消化器科の専門領域で年間3万人の外来診察を行う。著書、テレビ出演歴多数。専門Youtubeチャンネルは18万人以上の登録者(2025年1月現在)
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