徐々に認知度は高まっては来ているもののまだまだ情報が少ない「男性更年期障害」。男性ホルモンの減少によって様々な症状が現れることを指しますが、人によっては、日常生活や仕事にも影響を与えることもあります。
この「教えて伊勢呂先生」は、泌尿器科専門医として第一線で活躍する伊勢呂先生に、「男性更年期障害」と付き合っていく上での様々な悩みを訊いてもらう連載です。
今回のテーマは、「食べ物」。
男性更年期障害と食べ物の関係やおすすめの食べ物、食生活について教えてもらいましょう。
「食事」ではなく「食習慣」「食生活」で考えることが大切
伊勢呂先生、よろしくお願いします。
男性更年期について、まず日常生活から変えてみようと思っています。食事はやはり重要なのでしょうか?
はい、もちろんです。食事と呼吸は、人間が唯一、体に別の物質を取り入れる行為ですからね。
食事があらゆる病気や症状に関係しているのはもちろんですが、男性更年期のようなホルモンバランスが関係している疾患においては、日常のセルフケアとして特に重要です。
男性更年期に効く栄養を含んだ食べ物ってありますか?
もちろんあります。でも、食事だけで男性更年期障害が劇的に良くなったり、一回食べて良くなるというものではないので、ご自身の生活習慣に合わせて、効果的に食事を摂る習慣を作ることが大切です。
実際のところは、みんな3日坊主になって継続しないんですよね…。
なので、あまり意識しすぎずに自然と食生活に取り入れられるようになることが、理想的と言えます。
そのうえで、男性更年期障害の要因となるテストステロンのレベルを間接的に上げることが出来る食べ物を取り入れることをお勧めします。
テストステロンのレベルを上げられる成分「亜鉛」
テストステロンのレベルを上げられる食べ物…具体的にはどんな食べ物ですか?
まずは亜鉛を含む食品、牡蠣や牛肉、レバーですね。
牡蠣は、生食でも加熱でもどちらでも大丈夫です。
亜鉛は料理程度の加熱で壊れることはありませんので、フライやバター炒めなど食べやすい料理法でいいです。ただし、豆類や穀物などに含まれるフィチン酸という成分が亜鉛の吸収を妨げることがあります。一緒に炒める具材がある場合、少し注意をした方がいいかもしれませんね。
そして、牛肉。これは、値段よりも部位が大事です。脂身が少なく赤身の多い、ももやリブロースがおすすめです。
ステーキがおすすめですが、焼き肉だったら油の多いカルビよりもハラミを選ぶといいでしょう。スタミナをつけるというイメージの強い食品ですが、それも亜鉛を多く含んでいることが大きいです。
レバーは、豚レバーでも鶏レバーでも大丈夫です。
先生…。僕、レバーが苦手なんですよね…。新鮮なものなら食べれるんですが。
そういう方も多いですよね(笑)
でも、最近はレバ刺しが禁止されたことで、低温調理の美味しいレバーが食べれるお店も多くなっています。そういったものをチョイスしてみるのはどうでしょうか。
自分で調理するのはハードル高いという方は、外食で選ぶメニュー候補に入れておくと言うものひとつの手だと思います。
亜鉛は、体の中で作ることができないので、食事で吸収するしかないんです。
なので、普段の食事で摂りやすい方法を見つけるというのは、意外と大切なポイントになります。
男性更年期障害に間接的に影響を与える「ジオスゲニン」「ビタミンD」「ビタミンK」
牡蠣に牛肉、レバー。本当に、スタミナや精が付きそうな食べ物ですね。
他にもいい食べ物ってありますか?
はい、まだありますよ。山芋や里芋です。
DHEAというテストステロンの前駆体になる成分があるのですが、山芋や里芋には、そのDHEAと似た働きをすると言われているジオスゲニンという成分が含まれています。
山芋や里芋を摂取することで、間接的にテストステロンを増やせる可能性があるという研究が最近出てきています。
あとは、ビタミンも忘れてはいけません。
酵素の活動を補う「補酵素」という働きをして、代謝を円滑にする働きがあります。中でも、ビタミンDとビタミンKは、男性更年期に良い影響を与えると言われています。
ビタミンDは、おもに骨を作るのに必要とされる栄養素です。個人差はあるようですが、ビタミンDが不足している時に補充することで、テストステロンが改善するといった報告があったりします。
しいたけなどのきのこ類や、カツオやあん肝などの魚類にも多く含まれていますね。
僕…しいたけも苦手で…。他のきのこでも大丈夫でしょうか?
好き嫌い多いですね(笑)
でも大丈夫。身近なのでしいたけと言いましたが、エリンギやえのきの方がビタミンDを多く含んでますし、一番多いのは舞茸です。
ビタミンDも加熱しても壊れにくいので、舞茸の天ぷらなんかでも大丈夫です。
ビタミンKは、骨形成を促進し、ビタミンDと協力することで骨密度を高める働きがあります。男性更年期では、骨密度が低下することもあるので、ビタミンKの摂取がリスク軽減に役立つと言えます。
海苔などの海藻や、ブロッコリーやほうれん草などの野菜、納豆やモロヘイヤなどのネバネバ食品に多く含まれています。
男性更年期障害の大敵ストレスに対抗できる「トリプトファン」
よかった、このあたりなら、意識して日々の食事に取り入れられそうです。
いろいろと教えてもらったのですが、毎日の食事を考えるともう少し食材を知っておきたいです。まだ、良いものってありますか?
そうですね、これまでは身体的に影響するものをご紹介していましたが、男性更年期の天敵はストレスです。
そのストレスに対抗する重要な役割を果たす物質が存在します。セロトニンというのですが…一度はどこかで聞いたことあるんじゃないでしょうか。
脳内に存在する神経伝達物質のひとつなのですが、ストレスに対する抵抗力を高め、ストレスを軽減するために欠かせない物質です。そのため、しばしば「幸せホルモン」とも呼ばれています。
このセロトニン、実は、食べ物から摂取することはできないんです。
でも、セロトニンの材料となるトリプトファンなら、食べ物から直接摂取することができます。
たしかに、セロトニンは聞いたことがある気がします。
でも、トリプトファンというのは知りませんでした。どのような食べ物から摂れるのですか?
トリプトファンは、必須アミノ酸のひとつで、ニシンやカツオ、大豆、卵、乳製品など割といろいろな食べ物に含まれています。
中でも、セロトニンの分泌を目的とした場合に特にお勧めなのは、バナナですね。
バナナには、ビタミンB6も含まれているんです。
ビタミンB6というのは、トリプトファンがセロトニンに変換する際に補酵素として働いてくれるビタミンなので、セロトニンの分泌を増やすにはもってこいな食べ物というわけなんですね。
精神的に元気になることがまず男性更年期障害への防御になりますから、食生活はもとより、普段からセロトニンを増やすことを心がけましょう。
身体だけではなく心を元気にできる食事も大切
なるほど。直接、体の元気のもとになる栄養だけではなく、心も元気にしておく必要があるんですね。
そうですね。精神的な健康という意味では、ハーブティーなど好きな香りのものを取り入れ、リラックスした時間を作ることもいいですね。
漢方茶などもありますが、それはまた別の機会に。
ちなみに、男性更年期には筋トレが良いと聞いたことがあるのですが、筋トレに合わせて、プロテインを摂ることはいいことなのでしょうか?
もちろん、タンパク質はテストステロン分泌に主要な役割を果たします。
効率のいい筋トレに適量のプロテインを飲むことも悪いことではありません。
ただし、飲み過ぎには注意も必要です。基本的に、栄養は食事で摂ることを優先に考えてください。プロテインやサプリメントなどは、適量の摂取を心がけ、あくまで補助的に使うようにしましょう。
ありがとうございます。とても参考になりました。
なるべく日頃から、家での食事だけではなく外食でも意識することが大切ですね。
それにしても、こうした知識を持ったうえで、いい食べ物を取り入れるのはゲームみたいで楽しそうです。
そうですね。食事は毎日のことなので、生活リズムや習慣に合わせて、無理なく続けることが大事です。そのためには習慣にすることです。
ゲーム感覚で楽しむのは、ありですね。
美味しい食事はなによりストレスを軽減させるので、無理なく続けてください。
最後にひとつだけ。食事だけで、劇的に更年期症状が改善するということがないのは事実です。症状がひどい場合には医学的な治療が、そして食事も含めた総合的な生活習慣の見直しが必要な場合もあるということも念頭に置いておいてくださいね。
【参考文献】
- 藤田, 純一 (監修). 『男性更年期障害:症状と治療』. 医学出版, 2020年.
- 松田, 和代. 「亜鉛と男性ホルモンの関係」. 日本栄養・食糧学会誌, 67(2), 75-82, 2021.
- Holick, M. F. (2007). “Vitamin D deficiency”. The New England Journal of Medicine, 357(3), 266-281.
- Stojanoska, M., Milosevic, N., & Miljanovic, M. (2020). “The role of diet and nutrition in the treatment of male infertility and hormonal balance”. Clinical Nutrition ESPEN, 36, 1-11.
- 中村, 健一. 「トリプトファンとセロトニンの関係:ストレス管理への応用」. 心身医学, 61(5), 395-401, 2019.
- Heshmati, J., & Sepidarkish, M. (2018). “Effects of DHEA supplementation on hormonal and metabolic outcomes: A systematic review and meta-analysis”. Hormone and Metabolic Research, 50(4), 281-290.
- 厚生労働省. 「日本人の食事摂取基準(2020年版)」.
- National Institutes of Health. “Zinc: Fact Sheet for Health Professionals”. NIH Office of Dietary Supplements, 2021.
- Harwood, A. J. (2011). “Dietary modulation of the stress response: The role of nutrients in stress resilience”. Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism, 96(7), 282-288.
この記事の監修者
伊勢呂 哲也
医療法人インテグレス理事長
大宮エヴァグリーンクリニック 理事長・院長
東京泌尿器科クリニック上野/
池袋消化器内科・泌尿器科クリニック/
新橋消化器内科・泌尿器科クリニック 理事長
泌尿器科・消化器科の専門領域で年間3万人の外来診察を行う。著書、テレビ出演歴多数。専門Youtubeチャンネルは15万人以上の登録者(2024年10月現在)
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