男性更年期障害は、加齢に伴う男性ホルモン(テストステロン)の低下によって引き起こされる、様々な症状の総称です。テストステロンは、思春期における第二次性徴の発現、筋肉や骨格の形成、性機能の維持など、男性の心身の健康に重要な役割を果たすホルモンです。
テストステロンの分泌量は10代から20代でピークを迎え、その後緩やかに減少していきます。40代以降になると低下が顕著になり、年間約1%のペースで減少していくことが分かっています。
特に40~50代での発症が多く、この時期はキャリアの転換期や家庭での役割の変化など、社会的なストレスが重なることで症状がより顕著になりやすい傾向があります。
男性更年期障害は、身体と精神の両面に様々な症状を引き起こします。男性更年期障害による変化に早期に気づき、対策を講じることが重要ですが、初期症状を単なる疲れや一時的な体調不良として見過ごしてしまい、気づいた時には症状が悪化し、深刻な状態に陥っていることも少なくありません。
今回のコラムでは、男性更年期障害によって起きる身体と精神面の症状について、その概要を解説します。
男性更年期の身体的症状
1. 全身の体力・筋力低下
テストステロンの分泌低下により筋肉量が減少します。基礎代謝は筋肉量に比例するため、筋肉量が減少すると基礎代謝も低下します。また、テストステロン低下は赤血球の産生にも影響を与え、酸素運搬能力の低下を招きます。
その結果、疲労回復力や持久力が低下し、以前は何気なくこなせていた運動や作業にも支障をきたすようになり、生活の質に大きな影響を与えることになります。
2. 自律神経の乱れ
テストステロンは自律神経系のバランス保持にも重要な役割を果たしています。テストステロンの低下により、体温調節中枢の機能が低下し、体温調節が不安定になります。自律神経系の乱れは、ホットフラッシュや動悸などを引き起こし、日常生活に支障をきたす要因となります。
3. 末梢神経の変化
テストステロンの低下が神経系の機能や血流に影響を及ぼすことがあります。この影響によって、手足のしびれや違和感といった症状、関節のこわばりなどが現れることがあります。
4. 性機能への影響
テストステロンは性機能の維持に直接的に関与する重要なホルモンです。その低下により、性腺機能が低下し、性欲の減退が起こります。また、血流量の低下はED(勃起不全)を引き起こし、生活の質(QOL)の低下につながります。こういった変化は精神的なストレスの原因ともなり、さらに更年期障害を悪化させることもあります。
男性更年期の精神的症状
1. 感情のコントロールが難しくなる
テストステロンの低下は、脳内の神経伝達物質バランスに大きな影響を与えます。特にセロトニンやドーパミンといった感情を調節する物質の分泌が乱れ、コントロールが難しくなります。また、ストレスへの耐性が弱まり、些細なことでも過剰に反応しやすくなります。
感情をコントロールする回路の機能低下により、イライラしたり怒りっぽくなるなど、感情の起伏が大きくなることで、周囲との関係にも影響を及ぼすことがあります。さらに、これらの変化は社会生活や家庭生活においてトラブルを生むこともあり、新たなストレス要因となって悪循環を生むことも少なくありません。
一つの症状が他の症状を誘発したり、悪化させたりする可能性もあるため、周りからの指摘にも耳を傾けることで早期の気づきにつながります。早期に適切な対策をとることが重要です。
2. 認知機能への影響
男性更年期障害では、物事を考えたり判断したりする脳の働きにも変化が現れます。例えば、仕事や生活の計画を立てることが以前より難しくなったり、判断に迷うことが増えたりします。また、複数の作業を同時にこなすことが困難になり、「あれ、今何をしようとしていたっけ?」と考え事が途切れやすくなります。
集中力も影響を受け、長時間一つの作業に取り組むことが難しくなります。以前なら素早く対応できていた事柄に対しても、考えたり決めたりする時間が長くなったと感じることが多くなります。
これらの変化は、日々の仕事や生活に支障をきたすことがあります。特に仕事では効率の低下を実感しやすく、「最近、以前ほど仕事が進まない」「ミスが増えた気がする」といった悩みにつながることもあります。ただし、これらは男性更年期障害による一時的な変化であり、適切な対処により改善が期待できる症状です。
3. 気分・意欲への変化
男性更年期障害では、気力の面でも変化が現れます。「何をするのも面倒だな」「やる気が出ない」と感じることが増え、新しいことに挑戦する意欲も減っていきます。以前なら楽しいはずの出来事でも、あまり心が動かなくなってきます。
家族との食事や友人との会話も、どこか物足りなく感じたり、一人の時間に「このまま大丈夫だろうか」「今後どうなっていくのだろう」といった漠然とした不安感を抱くこともあります。
また、人付き合いへの関心も変化してきます。人に会うことが億劫になり、つい一人の時間を選びがちになります。
早期対策の重要性
これらの変化は決してめずら珍しい症状ではなく、男性更年期において多くの方が経験するものです。しかし、その変化は男性ホルモンの低下等によるものであり、適切なケアと対応により、徐々に改善していくことが期待できます。
男性更年期障害かもしれない…と感じたら、まずは医師への相談を検討してみましょう。病院選びについては、「男性更年期障害のお悩み解決!病院選びのポイント」が参考になるかと思います。
この記事の監修者
伊勢呂 哲也
医療法人インテグレス理事長
大宮エヴァグリーンクリニック 理事長・院長
東京泌尿器科クリニック上野/
池袋消化器内科・泌尿器科クリニック/
新橋消化器内科・泌尿器科クリニック 理事長
泌尿器科・消化器科の専門領域で年間3万人の外来診察を行う。著書、テレビ出演歴多数。専門Youtubeチャンネルは15万人以上の登録者(2024年10月現在)
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