男性更年期障害が心に与える影響とは?気分の落ち込み、不安、イライラの正体に迫る

男性更年期障害は、加齢に伴い男性ホルモン「テストステロン」の分泌が減少することで起こる症状のことです。テストステロンは筋肉や骨を強くする働きだけでなく、気分を安定させたり、活力や自信を保ったりといった、心の健康にも深く関わっています。
このホルモンが不足すると、心と体のバランスが崩れ、特に精神的な不調が現れることがあります。例えば、「気分の落ち込み」「不安」「イライラ」「やる気の低下」「集中力の低下」「食欲の変化」などが代表的です。これらの症状は、患者自身だけでなく、家族や仕事の場面にも影響を与える可能性があるため、原因を知り、適切な理解を深めることが重要です。この記事では、男性更年期障害における精神症状について、詳しく解説します。

1. 気分の落ち込み・うつ症状

男性更年期障害の代表的な精神症状の1つが、気分の落ち込みやうつ症状です。「何となくやる気が出ない」「以前は楽しかったことが楽しく感じられない」といった状態が続く場合、それは男性更年期障害のサインかもしれません。このような症状が進行すると、無気力感や絶望感に繋がることもあります。

こうした変化の背後には、脳内の「セロトニン」や「ドーパミン」といった神経伝達物質が関与しています。これらの物質は、気分を調整したり、幸福感をもたらしたりする働きを持っており、テストステロンの減少に間接的な影響を受ける可能性が指摘されています。つまり、テストステロンが減少すると、これらの物質のバランスが乱れ、心が沈みがちな状態に陥ってしまうのです。

気分の落ち込みとうつ症状が続くと、日常生活に支障をきたすことがあります。例えば、仕事に集中できなくなる、趣味や友人との交流を避けるようになる、家庭内で孤立感を感じるなどです。このような変化は本人にとってもつらいものですが、周囲の人々にも影響を与えることがあります。

2. イライラ・感情の不安定さ

「最近、些細なことでイライラしてしまう」「感情のコントロールが難しい」と感じることはありませんか? これは、男性更年期障害の典型的な症状の一つです。

テストステロンは、感情を穏やかに保つのに重要な役割を果たしています。このホルモンが十分に分泌されていると、心に余裕が生まれ、冷静に物事を考えられます。

一方で、テストステロンが減少すると感情の安定が難しくなり、怒りっぽくなったり、悲しみが突然込み上げたりすることがあります。例えば、家族との会話中にちょっとした言葉に過剰に反応してしまう、仕事場で小さなミスに過度にイライラする、といったケースがこれに当てはまります。このような状態が続くと、人間関係に摩擦が生じることもあり、本人にとっても周囲にとっても負担となります。

3. 不安感とストレス耐性の低下

男性更年期障害では、不安感が生じたりストレスに対する耐性が低下したりすることがよくあります。「なんとなく不安な気持ちが続く」「これまで気にならなかったことが急に心配になる」といった経験は、男性更年期障害の可能性を示しています。

というのも、テストステロンはストレス反応全体に影響を与える役割を持っているのです。そのため、テストステロンが正常なレベルであれば、ストレスに対して適切に対処できることが多いですが、減少するとストレスホルモンである「コルチゾール」の影響が相対的に強まり、ストレスを過剰に感じやすくなる可能性があります。その結果、不安感が高まり、日常の些細な出来事にも敏感に反応するようになります。

4. 集中力の低下とやる気の喪失

男性更年期障害では、「集中力が続かない」「物事に取り組む意欲が湧かない」といった状態に陥ることがよくあります。これには、テストステロンの脳の記憶や集中力を司る「海馬」という部分に与える影響が関係しています。

テストステロンが減少すると、例えば、会議中に話の内容が頭に入らない、家事や育児が億劫に感じられるといった変化が現れることがあります。また、「何をしても楽しくない」「目標を立てても実行する気にならない」といったやる気の喪失も特徴的です。これらの症状は、自分自身を否定する気持ちや無力感を引き起こしやすく、さらなる精神的な負担を招くことがあります。

5. 食欲の変化

男性更年期障害に伴う精神的な不調は、食欲にも影響を与えることがあります。例えば、気分の落ち込みや不安感から食欲が低下し、「食べ物に興味が湧かない」と感じる場合があります。一方で、ストレスの影響で一時的な心の安定を求め、過食傾向になることもあり、この場合には「食べすぎて後悔する」という負の連鎖に陥ることも少なくありません。

このように、心と体は密接に関係しています。つまり、上記のような症状が続くと、体重の増減や栄養バランスの乱れを招き、さらに心身の不調を悪化させる可能性があるということです。

まとめ

テストステロンは、男性の体と心を支える「元気のもと」ともいえる存在です。このホルモンが適切に分泌されていると、筋力や骨密度が維持されるだけでなく、気持ちが前向きになり、自信を持って生活することができます。

しかし、加齢に伴ってテストステロンが減少すると、これらのバランスが崩れ、「気分の落ち込み」「不安」「イライラ」「集中力の低下」などの症状が現れます。これらは決して「年齢のせい」で片付けられるものではなく、体内のホルモンバランスの変化が原因です。

男性更年期障害について理解し、精神的な不調の原因を知ることは、心の健康を守るための大切な第一歩です。もし、気分の落ち込みやイライラ、不安などの症状が続くようであれば、専門の医師に相談してみるとよいでしょう。

参考文献

  1. Zarrouf, Z., Artz, M., Griffith, K., Sirbu, P., Kommor, A. Testosterone and depression: Systematic review and meta-analysis. Journal of Psychiatric Practice. 2009, 15(4), 289-305.
  2. Zitzmann M. Testosterone and the brain. Aging Male. 2006;9(4):195-199
  3. Seidman SN, Weiser M. Testosterone and mood in aging men. Psychiatr Clin North Am. 2013;36(1):177-182.

この記事の監修者

伊勢呂 哲也

医療法人インテグレス理事長
大宮エヴァグリーンクリニック 理事長・院長
東京泌尿器科クリニック上野/
池袋消化器内科・泌尿器科クリニック/
新橋消化器内科・泌尿器科クリニック 理事長

泌尿器科・消化器科の専門領域で年間3万人の外来診察を行う。著書、テレビ出演歴多数。専門Youtubeチャンネルは18万人以上の登録者(2025年1月現在)
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