男性更年期障害がもたらす仕事と私生活への影響

仕事や家庭で「以前と何かが違う」と感じることはありませんか?

集中力の低下やイライラ、体の不調などが続く場合、それは「男性更年期障害」のサインかもしれません。


男性ホルモンであるテストステロンの減少によって引き起こされるこの状態は、仕事や家庭、人間関係にさまざまな弊害をもたらす可能性があります。この記事では、男性更年期障害がもたらす具体的な影響とその対策について詳しく解説します。

男性更年期障害とは?

男性更年期障害は、加齢やストレス、生活習慣の乱れなどにより、男性ホルモン「テストステロン」の分泌量が減少し、身体的・精神的・性機能的な問題が現れる状態を指します。男性ホルモンは20代でピークを迎え、その後は徐々に減少しますが、特に40代以降になると症状が顕著に現れる人が増える傾向にあります。

代表的な症状として、「イライラ」「疲労感」「性欲低下」「集中力低下」「睡眠障害」「筋力低下」などが挙げられます。これらの症状が仕事や家庭、さらには日常生活全般に多大な影響を及ぼし、適切に対処しなければ深刻な問題に発展する可能性があります。

仕事への影響

パフォーマンスの低下と人間関係の悪化

男性更年期障害によって感情のコントロールが難しくなる傾向にあり、うつや焦燥感などを感じるようになる人も少なくありません。感情的な波が仕事の進行を妨げ、パフォーマンスを低下させる原因となります。これが繰り返されると、結果的に生産性の低下に繋がり、仕事の質に対する信頼性が損なわれてしまうことがあります。

特に責任の重い立場にある中高年男性にとって、更年期障害による身体面や精神面の変化が仕事に影響を及ぼすと、その波紋は職場全体に広がりやすくなります。

・生産性の低下

仕事をスムーズにこなせなくなると、スケジュールの遅れやミスが目立ち、信頼性が損なわれることがあります。特に注意力が必要な場面や迅速な判断が求められる仕事においては、ミスや仕事の遅れが表面化しやすく、業務の負担を軽減する対策を取らないと、結果的に本人だけでなく周囲への影響も大きくなります。

・ 上司や部下、同僚とのトラブル

更年期障害によるイライラや攻撃性が表に出ると、上司や部下、同僚との間でトラブルが発生するリスクが高まります。上司に対して感情的な態度を取ったり、部下に過度に厳しい指示を出したりすることで、職場で孤立する可能性もあります。こうした人間関係の悪化は、信頼を損ない、将来的なキャリアにも悪影響を及ぼします。

・ストレスによる休職や退職のリスク

仕事で思うような結果を出せず、さらに職場での人間関係が悪化することで、ストレスが限界を超える場合があります。こうなると悪循環となってしまい、「職場に居場所がない」と感じたり、症状を隠すことが精神的負担となり、抑うつやうつ症状となり、最終的に休職や退職を余儀なくされるケースも少なくありません。

職場での男性更年期障害対応策

・症状の自己認識が周囲の理解へとつながる

真面目で責任感が強い人ほど、『自分ならできるはず』『周りに迷惑をかけてはいけない』と無理をしがちです。しかし、それではますます自分を追い込み、男性更年期障害を悪化させる結果となります。そうならないために最も重要なことは、自分の状態を認識し、信頼できる上司や同僚に現状を説明することが重要です。症状を隠さず、周囲に配慮を求めることで、働きやすい環境を整えやすくなります。

・ストレスを減らす職場環境作り

複数の仕事を抱えている場合などは優先順位を整理し、負担を軽減する工夫を取り入れることが効果的です。また、職場でのメンタルケアやカウンセリングサービスを積極的に活用することもストレス緩和に役立ちます。

家庭での影響

夫婦関係の悪化と離婚のリスク

男性更年期障害の影響は、家庭生活にも深刻な問題を引き起こします。夫婦間のすれ違いや親子間の関係悪化が進むことで、家庭の雰囲気が悪化し、長期的には離婚や家族崩壊につながる可能性もあります。

・「無気力やキレる」ことで家族の葛藤を生む

更年期障害では、気分の落ち込みから「無気力」になったり、イライラから「キレる」といったことが頻発することがあり、妻や子どもにとって大きなストレスとなります。小さなことに感情的に怒りをぶつけたり、無気力から無視を続けることで、家族間の信頼関係が損なわれることが少なくありません。妻が「接し方がわからない」と感じる状況が続くと、夫婦関係の悪化は避けられません。

・性欲減退と親密さの喪失

性欲や性機能の低下は、夫婦関係における親密さを損なう原因になることがあります。これにより、妻が「自分が愛されていない」と感じることが多くなり、一方で男性も「自分に自信が持てない」と悩む悪循環に陥ることがあります。

・熟年離婚のリスク

夫の更年期障害が妻に精神的ストレスを与え、夫婦間の溝が深くなり、修復が難しくなると熟年離婚に発展することがあります。

家庭での男性更年期障害対策

・妻とともに男性更年期障害の理解を深める

更年期障害によって起きている症状を妻にも知ってもらい、共に対策を考えることが重要です。

・コミュニケーションの強化

日常的な会話を増やし、症状や感情を素直に共有することで、夫婦間の信頼を回復させることができます。

更年期障害が他の病気を招くリスクに

テストステロンは、男性にとって心身の健康を保つために重要な役割を果たします。テストステロンが低下すると様々な病気を招くことがあります。

・ 心血管疾患

テストステロンは血管の拡張を助け、血流を改善する働きがあるため、その分泌が低下すると血圧の上昇や動脈硬化が進行しやすくなり、動脈硬化を進行させ、心筋梗塞や脳卒中のリスクが高くなります。

・ 骨粗しょう症

テストステロンは骨密度を維持する役割も担っています。テストステロンが低下すると、骨の強度が弱くなり、骨折のリスクが増大します。男性においても、更年期を迎えることで骨粗しょう症の発症率が増加することが知られています。

・糖尿病

テストステロンの低下は、インスリンの感受性を低下させ、血糖値のコントロールが難しくなることがあります。これにより、2型糖尿病のリスクが高まることがあります。テストステロンが低いと、脂肪の蓄積が増え、特に内臓脂肪が増えることが、糖尿病を引き起こす要因となります。

男性更年期の診断と治療

上記に解説したように男性更年期障害は、症状が多岐にわたるため、なにかしらの症状が現れた場合には、医師による正確な診断が欠かせません。特に、テストステロンの状態を知るためには、血液検査が重要な役割を果たします。

・テストステロンの数値とAMSスコア

男性更年期障害の症状が現れている場合、血液中のテストステロン値が一つの目安となります。ただし、症状の有無や程度は数値だけでは判断できないため、問診や身体的な検査も併せて行われます。

問診では、「AMSスコア」という質問票が使用されることが一般的です。このスコアでは、心理的、身体的、性機能に関する17項目の質問に答え、症状の程度を数値化します。また、必要に応じて胸部X線検査、心電図検査、骨塩定量検査なども行われます。

・男性更年期障害の予防と治療

男性更年期障害は放置すると仕事や家庭生活への影響が深刻化します。しかし、早期に診断を受け、適切な治療を始めることで、症状の改善や生活の質の向上が期待できます。

予防としてはテストステロンの産生を促す食事や生活習慣、運動などを取り入れることが効果的です。また、最近ではサプリメントにも注目が集まっています。

男性更年期障害の治療は、生活習慣の改善や薬物療法を中心に行われます。重症の場合や生活改善だけでは症状が改善しない場合には、ホルモン補充療法(ART)が検討されます。

男性更年期障害を正しく理解し、前向きな対策を

男性更年期障害は誰にでも起こり得るものであり、決して珍しいものではありません。症状を放置することで、仕事や家庭、日常生活に深刻な弊害をもたらす可能性があります。しかし、早期に症状を認識し、専門医の診断を受け、適切な治療を始めることで、これらの影響を最小限に抑えることが可能です。

この記事の監修者

伊勢呂 哲也

医療法人インテグレス理事長
大宮エヴァグリーンクリニック 理事長・院長
東京泌尿器科クリニック上野/
池袋消化器内科・泌尿器科クリニック/
新橋消化器内科・泌尿器科クリニック 理事長

泌尿器科・消化器科の専門領域で年間3万人の外来診察を行う。著書、テレビ出演歴多数。専門Youtubeチャンネルは18万人以上の登録者(2025年1月現在)
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