最近よく耳にする男性更年期障害。加齢に伴い身体的、精神的に不調をきたす病気で、「もしかしたら自分もそうかも」と心当たりがある方もいらっしゃるかもしれません。この男性更年期障害によって生じる精神的症状(不安感や抑うつ、イライラなど)は体内のセロトニン濃度を高めることで改善できる可能性があります。本記事では、男性更年期障害とセロトニンについて、それぞれの特徴や関連性について解説します。
男性更年期障害とは?
男性更年期障害は主に40~50代以降に見られ、疲労感や性欲減退、体力の低下、抑うつ、睡眠障害、イライラなど、多岐にわたる身体的、精神的症状を引き起こします。適切な治療が行われない場合には、生活の質が著しく損なわれる可能性があるため、早期の診断と対処が重要です。
なお、特にテストステロンの分泌が低下することで起こる状態はLOH(Late-Onset Hypogonadism)症候群と呼ばれ、男性更年期障害という言葉がこのLOH症候群を指すことも少なくありません。
男性更年期障害と女性の更年期障害の違い
一般的には「更年期障害は女性に起こるもの」と思われているかもしれません。しかし、加齢によるホルモンバランスの乱れは男性にも生じることがわかっています。女性更年期障害は、主にエストロゲンの急激な減少が原因で生じ、比較的短期間で症状のピークを迎えます。その一方で、男性更年期障害の原因であるテストステロンの低下は緩やかに進行するため、症状も長期間にわたって持続する傾向があります。このため、男性更年期障害では慢性的に苦痛が生じやすく、日常生活への影響も大きくなる可能性があります。加齢による自然な変化であるとはいえ、適切な診断と治療が行われない場合には、生活の質が著しく低下する可能性があるため、医療機関での早期の対応が重要です。
セロトニンとは?
セロトニンは、中枢神経系や消化管に存在する神経伝達物質であり、気分や睡眠、食欲、ストレス応答などの調節に関与しています。特に、感情の安定や幸福感の維持に重要な役割を果たしているため、「幸せホルモン」と呼ばれることもあります。
このセロトニンが脳内で不足すると、不安感や抑うつ、イライラといった精神的不調が現れ、逆にセロトニン濃度が高まると、精神的安定を図ることができます。そのため、日常生活の中でセロトニンの働きを促進することが重要です。
男性更年期障害とセロトニンの関係
男性更年期障害の原因であるテストステロンの減少は、セロトニン系の活動にも影響を与えることが示唆されています。いくつかの研究では、テストステロンの減少が脳内のセロトニン濃度を低下させ、これが抑うつや不安といった精神症状の原因の一部になる可能性を指摘しました。動物実験では、テストステロン低下がセロトニンの合成を抑制し、行動の変化を引き起こすことも確認されています。さらに、テストステロン補充療法により、セロトニン濃度が回復し、気分や感情の改善がみられるケースも報告されています。
また、男性更年期障害の患者に対して、テストステロン補充療法のみでは十分な効果が得られない場合には、セロトニン系を調整する抗うつ薬などの併用が試みられることもあります。
セロトニンを増やすための方法
このように体内のセロトニン濃度を高めることで、男性更年期障害によって生じる精神的症状を軽減できる可能性があります。そこで、ここからは、体内のセロトニン濃度を高めるのに効果的な方法をいくつか紹介します。
・適度な運動:有酸素運動はセロトニンの分泌を促進することが知られています。特にウォーキング、ジョギング、ヨガなどのリズム性のある運動が推奨されます。
・バランスの取れた食事:セロトニンの原料となるトリプトファンを多く含む食品(乳製品、バナナ、大豆製品、ナッツ類など)の摂取が重要です。
・十分な日光浴:日光に当たることでセロトニンの生成が活性化されるため、適度な日光浴が推奨されています。
・ストレスの軽減:マインドフルネスや深呼吸、瞑想などのリラクゼーション方法は、セロトニンの分泌を促進する効果を期待できます。
・質の高い睡眠:良質な睡眠を確保することは、脳内セロトニンの安定に寄与します。就寝前のスマートフォンやパソコンの使用を控えたり、飲酒を避けたりすることが、良質な睡眠に繋がります。
まとめ
セロトニンの分泌を促すことで、男性更年期障害によって生じる精神的症状を軽減できる可能性があります。日常生活の中でセロトニンの分泌を促す方法には、運動や食事、睡眠、ストレス管理などがあり、これらを取り入れてみると良いでしょう。
「男性更年期障害かな?」と感じた場合は、一人で抱え込まずに医師へ相談し、適切な治療や指導を受けることが大切です。
参考文献
堀江重郎.13.男性更年期障害(LOH症候群).日本内科学会雑誌.2003,102 (4),p.914-921.
日本泌尿器科学会ほか編.加齢男性性腺機能低下症候群(LOH症候群)診療の手引き
.じほう,2007,108p.
Morales A, Lunenfeld B. Investigation, treatment and monitoring of late-onset hypogonadism in males. Official recommendations of ISSAM. Aging Male. 2002.
Miklya I, Knoll B, Knoll J. An HPLC tracing of the enhancer regulation in selected discrete brain areas of food-deprived rats. Life Sci. 2003.
この記事の監修者
伊勢呂 哲也
医療法人インテグレス理事長
大宮エヴァグリーンクリニック 理事長・院長
東京泌尿器科クリニック上野/
池袋消化器内科・泌尿器科クリニック/
新橋消化器内科・泌尿器科クリニック 理事長
泌尿器科・消化器科の専門領域で年間3万人の外来診察を行う。著書、テレビ出演歴多数。専門Youtubeチャンネルは15万人以上の登録者(2024年10月現在)
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