必須アミノ酸であるトリプトファンは、さまざまな成分の合成に欠かせない物質ですが、「幸せホルモン」と呼ばれるセロトニンの合成にも関与しています。 セロトニンとは、脳や身体で重要な役割を果たす神経伝達物質で、主に気分や感情の安定、睡眠、食欲、体などに関与しています。
男性更年期で現れる不安感、気分の落ち込み、睡眠障害、イライラなどといった症状の改善に、トリプトファンは一役買うかもしれません。
トリプトファンとは、どのようなもので人体にどのような影響を及ぼすのか、どのように摂取するのかなどを詳しく見ていきましょう。
人体にとって重要な成分を合成するトリプトファン
必須アミノ酸の一種であるトリプトファンは、人体にとって非常に重要なホルモンや成分の合成に関与します。下記は、その代表的なものです。
「幸せホルモン」のセロトニン
トリプトファンは必須アミノ酸の一種で、「幸せホルモン」と呼ばれるセロトニンの材料となる成分です。セロトニンには気分や感情の安定、睡眠、食欲の調整、体温調節といった役割があり、減少すると不安感やイライラ、うつ病のような症状が表れます。
睡眠に関わるメラトニン
さらに、トリプトファンは、睡眠に関わるメラトニンの合成にも重要な成分です。
メラトニンは、体内時計(睡眠・覚醒リズム)の調整に関わるホルモンで、体温やホルモン分泌にも影響を与え、健全な睡眠をサポートします。日中はほとんど分泌されず、夜になると分泌が増え、眠気を促進します。
夜間のメラトニン分泌が不足すると、不眠や入眠困難などの睡眠障害を引き起こす可能性があります。
糖質や脂質の代謝・分解に重要なナイアシン
また、糖質や脂質を代謝・分解する際に使用されるナイアシンというビタミンの合成にも、トリプトファンが関わっています。
水溶性のビタミンであるナイアシンはビタミンB群の一種で、エネルギーの産生、糖質・脂質・タンパク質の代謝、アルコールの代謝など数々の機能に関わる成分です。
トリプトファンが不足すると起こりうる症状
前述のように、人体に重要な成分の合成に関与するトリプトファンですが、その反面、不足すると実にさまざまな身体的、精神的な症状が現れる可能性があります。
気分障害:うつ症状(気分の落ち込み)、不安感、イライラが現れる
睡眠障害:不眠や浅い眠りが生じることがある
食欲変化:食欲が増加したり低下したりすることがある
集中力低下:認知機能や注意力の低下が見られる場合がある
これらの症状には、男性更年期や女性更年期に関連するものも沢山あります。それらに悩まされている人は、適切な量の摂取を心がけた方が良いと言えます。
トリプトファンを効果的に摂取する方法
トリプトファンは非常に重要なアミノ酸ですが、体内での生成ができないため、基本的には食事やサプリメントから摂る必要があります。
1日の摂取量としての目安は、厚生労働省がまとめている『日本人の食事摂取基準(2020年度版)』によると、体重1kgあたり4㎎と定められています。例えば、70㎏の人であれば、280㎎の摂取が理想的です。
トリプトファンが含まれる主な食品
魚類
ニシン(かずのこ)、カツオ(かつお節)、イワシ、サバ、サケ・マス、マグロ
主な食品の含有量
食品名 | 含有量(100gあたりmg) |
かつお節 | 960 |
イワシ | 310 |
サバ | 300 |
大豆、大豆たんぱく
大豆、きな粉、納豆、みそ、豆腐、豆乳
主な食品の含有量
食品名 | 含有量(100gあたりmg) |
大豆(分離大豆たんぱく) | 1200 |
きな粉 | 300 |
納豆 | 150 |
牛乳やチーズなどの乳製品
チーズ、牛乳、ヨーグルト、バター
主な食品の含有量
食品名 | 含有量(100gあたりmg) |
パルメザンチーズ | 590 |
チェダーチーズ | 350 |
ヨーグルト | 45 |
牛乳 | 40 |
ごま、ナッツ類
ごま、ピーナッツ、アーモンド、ヘーゼルナッツ、ピスタチオ、クルミ
主な食品の含有量
食品名 | 含有量(100gあたりmg) |
ごま(乾燥) | 370 |
ピーナッツ | 320 |
アーモンド | 210 |
肉類
鶏肉、牛肉、豚肉、ラム肉
主な食品の含有量
食品名 | 含有量(100gあたりmg) |
鶏肉(胸肉、皮なし、調理済み) | 290 |
ラム肉(赤身、調理済み) | 240 |
豚肉(赤身、調理済み) | 220 |
牛肉(赤身、調理済み) | 210 |
卵
卵黄、卵白、全卵
主な食品の含有量
食品名 | 含有量(100gあたりmg) |
卵黄 | 221 |
卵白 | 161 |
全卵 | 152 |
小麦
小麦、パスタ、パン
主な食品の含有量
食品名 | 含有量(100gあたりmg) |
全粒小麦粉 | 150 |
白小麦粉 | 85 |
パスタ(乾燥) | 100 |
パン(白パン) | 85 |
トリプトファン含有量ランキング
含有量が特に多い食品は、下記の通りです。
順位 | 食品名 | 成分量 |
100gあたりmg | ||
1 | 乾燥卵白 | 1300 |
1 | かずのこ(乾) | 1300 |
3 | 分離大豆たんぱく(塩分無調整タイプ) | 1200 |
3 | 分離大豆たんぱく(塩分調整タイプ) | 1200 |
5 | カゼイン | 1100 |
6 | 削り節 | 1000 |
7 | かつお節 | 960 |
8 | とびうお(煮干し) | 930 |
9 | 裸節 | 900 |
10 | サケ節(削り節) | 880 |
10 | たたみいわし | 880 |
トリプトファンと一緒に摂りたい「ビタミンB6」
トリプトファンがセロトニンへと変換されるプロセスを円滑に進めるためには、「ビタミンB6」が補酵素として不可欠です。ビタミンB6は、鶏肉や魚類、じゃがいも、そしてバナナに豊富に含まれています。
特にバナナは、トリプトファンとビタミンB6を同時に摂取できる食品として知られています。さらに、バナナには炭水化物も含まれており、これがインスリンの分泌を促し、トリプトファンが脳内に取り込まれやすくなります。
その結果、セロトニンの合成が促進され、気分の安定やストレス緩和に寄与します。
サプリメントでの摂取について
出来るだけ食事からトリプトファンを摂取することが望ましいですが、それでは十分に摂取できない場合もあるため、サプリで補うことも有効な方法のひとつです。
しかし、過剰摂取は悪影響を及ぼす可能性もあるので注意が必要です。
フランス食品衛生安全庁(AFSSA)は2009年に「サプリメントでのトリプトファンの摂取は1日220㎎とすべき」という意見書を出しています。その意見書によると、1日あたり、3g〜6gの過剰摂取によって無気力、胃腸の不快感による吐き気や頭痛がおこると報告されています。
サプリメントでの摂取は知らず知らずのうちに過剰摂取になってしまうことがあるので、1日の摂取量に気をつけながら使用するようにしましょう。